■触る風■



小学二年生の時だと記憶している。
一年生ではまだどこか記憶に残すには幼すぎた
記憶力のワタシだったので 二年生だったと思う。
三年生になると急に知恵ついたのはよく
憶えているから確かだと思う。

ワタシの通っていた学校の登下校のルートはとても
田舎道で勿論、信号はなく車もそう多く 走っても
いなかった。
そのルートの途中に位置する両サイドを田んぼに
挟まれた軽自動車が一台ようやく通れる位の 細い路があり、それはそこで起こった。

低学年の就業時間はまだ短く、まだ陽の高い昼過ぎ頃だったか 独りでその細い見晴らしの良い道を
ランドセルをしょって歩いていた。

そこはとても静かで他に人の気配も何もなかった。

ゆっくりと背後から緩やかなそよ風が吹いてきて
「ああ、気持ちいいな・・。」と
何気にそのまま歩いているとその風がワタシの頬の当たりで その速度を落としてゆるりゆるりとワタシの両頬を
撫で回した。

その時はその不思議さを不思議とも感じなかったが
今となるとやはり何かの気のせいでも ない感覚だったと返って確信出来る。

感触はいわゆる「風」なのである。
しかしその「風」であるはずのものが丁度人の手
くらいの形に止まってワタシの頬を ゆっくりと優しく撫で回していた。 そしてその感触が何とも形容し難い位繊細で心地良かったので、 その時は何か夢うつつの心境になって黙って目を細めていたと思う。

その内、その「風」はゆっくりとワタシを通り越して遥か遠くに流れていったのである。

そんな事が同じ場所で、二度だけあった。
今考えたらやはりそれは「風」であり「何か」でもあってまだ柔らかい十も満たない幼子の 頬を思わず触りたくなった・・と考えれば合点がいくのだが・・。