■触られた■



暑い日の夕暮れだった----
その日は珍しく夕方に家に居られて時間的に妙に眠気が
起きた。
二階の自室にはクーラーが無かったので夏場は一階の
クーラーつきの和室で寝起きをするようにしていた。

その日も暑い一日だった。
和室に座布団を置いてそこに倒れ込むように仮眠した。
昏々とした気持ちの良い眠りの中、何となくすぐ横に位置していた玄関に人の気配が近付いてくるのを 何気に感じていた。
誰か帰って来たかな・・・・。
夢うつつの中でぼんやりとそんな事を微かに感じていた。
その内、深い眠りの中に入っていってどれ位経った
ろうか。
何やら体を愛撫されるような妙な夢をみていた。
夢のような・・・そうでないようなもうろうとした眠りの世界。
段々とその妙な感覚は実感を伴って意識もゆっくりと深い眠りの淵から起きだしていた。
寝言ならぬ身体が寝ぼけているような感じ。

そしてふと突然意識が戻ってぱっと眼を開けると
そこには・・・
横たわった私の身体の上に大きな見開いた目の男がいた。
突然見た私に驚いたようにギョロリとした目、頬のこけた初老の男で汗ばんだ顔は日焼けしていた。
不精髭も少しあったように思う。
でもその顔が映ったのはほんの1、2秒だったと思う。
意識の覚醒とほぼ同時にその男の顔は掻き消されていた。
はっきりと憶えている、あのぎょろついた大きな目・・・。
これも気のせいなんだろうか。
その時はまだ身体中を触りまくられた感触が残って
いたけれど。

高校を卒業してから引っ越してきたこの家のこの和室では
この他に奇妙な体験をする事になる。
以前は仏間としてあった玄関を入ってすぐ右のこの和室。
霊感のない私でも何か落ちつかない空間だった。
そんなこんなでもその部屋で寝起きするようになったのも
夏の夜の暑さには勝てなかったからである。